20200916
だいたい鶴江渡(概念)
鶴見のサプライズで急遽で江渡貝はイタリアに行くことになった。
江渡貝はイタリア行きのチケットを見て目をぱちくりさせた。
日付は1週間後。パスポートはあるが、行先がヨーロッパであるならば、少々突然すぎる話だ。
「鶴見さぁん…突然すぎますよォ」
江渡貝は学生だが、今年大学を卒業する。今は2月。
卒業論文は書き終えており、あとは卒業式を待つだけだった。
そのため時間を持て余しており、同棲している鶴見とのんびり過ごしているところだった。
「江渡貝くんが暇を持て余しているように見えたし、今なら……」と言って鶴見は江渡貝にイタリアのツアー雑誌を差し出した。
「ヴェネツィアのカーニバル……ですね?」
「そうそう!」
江渡貝も鶴見も顔を見合わせるとにこにこと表情を綻ばせた。
「ヴェネツィアに行って、それからローマとか行きたいなぁって」
ダメかな?と言いながら鶴見は江渡貝に巻き付くように、抱き着いた。
「ダメじゃないです。うふふふ」
鶴見はそのまま江渡貝の頬に顔を寄せた。
「うん」
「もう、さっそくイタリア気分ですか?」
「ちょっと挨拶……」
挨拶などと言いながら鶴見は江渡貝の口もとに唇を寄せる。
「これも挨拶ですか?」
「うーん、ちょっと違うかも」
鶴見が瞬きすれば、江渡貝のもとに星のかけらが光って見える。
江渡貝の「しょうがないなぁ」を飲み込むように鶴見は江渡貝の口を塞いだ。
20200916②
鶴江渡のようなもの
灰色の空を見上げた。曇り空に白い息が映る。
北国の冬は、皮の手袋をしていても寒い。
冷えて鈍感になった手の感覚を取り戻すように江渡貝は指先を曲げ伸ばしする。
一方で首はマフラーを厳重に巻いておりそこまで冷えていない。
「豚の皮の手袋ではまだ寒いな」
江渡貝は独り言を言うと手のひらをじっと見る。そこには何も書いていないが、江渡貝は鶴見のことを思い出していた。
「寒いなぁ……鶴見さぁん」
江渡貝の声に遅れて白靄がふわふわと江渡貝の顔の前を通っていく。
「まだかな」
江渡貝が寒空の下にいるのは鶴見と待ち合わせをしているからであった。
豚の皮を見つめながら江渡貝は鶴見の名をもう一度つぶやいた。
豚の皮の手袋よりも、体温が冷えていたとしても、鶴見の手の方が今の江渡貝を温めるのかもしれない。
江渡貝が寒さに手をこすり合わせていると、江渡貝の背後から「おーい」と呼ぶ声がした。
「鶴見さん!」
江渡貝は目をきらきらさせて顔をあげる。
今は目の前の白靄を気にしている場合ではないようだ。
マフラーがほどけているのを気にも留めず、江渡貝は鶴見のもとに走り出す。
「お待たせ、江渡貝くん」
江渡貝は目のまえに現れた鶴見の手を握った。
お互いに手袋をしており、手袋越しには体温は感じられないはずだ。
しかし、江渡貝は、鶴見の登場にほかほか頬を温めながら、ぎゅうと愛おしい人に頬を寄せた。
20200917
鶴江渡(きもち成人向け)
部屋の奥からすすり泣く声がしている。
声のする部屋には鶴見と江渡貝は二人並んでいた。
「ご、ごめんなさい、鶴見さん」
鳴き声の持ち主は江渡貝だったらしい。江渡貝は上半身のシャツをはだけさせ、下半身はズボンが脱げかけている。
「どうしたのかい」
鶴見のため息を聞いた江渡貝は目を大きく見開くとぼろぼろ大粒の涙を零した。
「隠していてごめんなさい……」
「隠し事?」
鶴見はそういうと江渡貝に口付けをした。
そもそも鶴見は江渡貝と出会ってすぐに、江渡貝が男だと気が付いていた。
結婚相談所の紹介で初めて出会った二人は一目で恋に落ちていたのだ。
何度目かのデートが今日のこと。お互いの気持ちはすでに確認している。
江渡貝の性別については今更気にする余裕はなかった。鶴見は江渡貝と思いを遂げたいとこうして自室に誘ったのである。
しかし、キスをしている途中で江渡貝は急に不安になったらしい。
急に泣き始めると江渡貝は服を脱ぎながら自らを語り始めたのである。
「僕……男です」
「うん、知ってるよ」
江渡貝の告白に対して鶴見はにっこり笑った。
「え、知っていて……」
「うふふ」
鶴見はそう言いながら江渡貝を抱き寄せる。
「あ、まって、鶴見さん。僕、まだ隠していることが」
「ううん、なんだい」
「僕……ないんです」
おちんちんが、と続けると、江渡貝は鶴見の手を自身のそこに導いた。
鶴見はそこに触れながら「なんだそんなことか」とつぶやく。
その程度で嫌いになるのなら、前世からのお告げなんて信じないさ、と鶴見は続けた。
その言葉で江渡貝の涙はとまる。
「鶴見さん、ずっとまえから僕も」
「うん、知っていたよ」
20200918_鶴江渡っぽいもの
鶴江渡的ななにか
鶴見さん、鶴見さんと江渡貝の声がした。
江渡貝は偽物人皮の試作品に染料を塗りつけているところだった。
どうしたのか、と鶴見が江渡貝のそばに近づいていく。
「鶴見さんが探している刺青人皮って、暗号になっているんですよね。アイヌの残した金塊の在処を示すものですよね」
「そうだね、だいたいあっている」
本当に金塊が眠っているのか、この戦いの後に手に入れられるものが金塊なのか。真実はいまだにはっきりしていない。
「もしも、この金塊争奪戦の後に僕が生きていたら……」
「江渡貝くん、君のことは我々が守る。だから縁起の悪いことを言うのは」
「いいえ、僕はたぶん鶴見さんや月島さんのように戦いに慣れている人間ではありません。だから、もしかしたら……と思っただけです。母とともに過去の自分は死にました。鶴見さんとずっと一緒にいたいけれど、僕は強運を持ち合わせていないような気がしているんです」
まるで、今日の夕食の話をするように軽い調子で江渡貝は、自分の将来について語った。
「強運ね……。私と出会うこと自体は強運ではないかもしれないね」
鶴見の発言に対し江渡貝は小首を傾げた。
「私は死神のような人間だ。関わる人間を片っ端から不幸にしてしまう」
「そんなこと、ないと思いますよ。僕の将来がどうであれ、僕は鶴見さんに出会って救われましたから」
「そう?」
「そう、なんです」
ぷん、と頬を膨らませる江渡貝の様子は愛らしい。
「鶴見さん、もし金塊を手に入れられたら、僕に少し分けてくれませんか。金糸にして、美しい傘を作ってみたいと思いました」
ちょっと成金趣味でしょうか。江渡貝はそう続けると照れ臭そうに笑った。
「いいんじゃない。きらびやかですてきだ」
「じゃあ約束です」
そう言うと二人は指さきを結んで、にこりと笑った。
20201005_つるえど・現パロ
鶴江渡前提にいろいろすすむ。
「三期始まりましたね」
十月五日・二十三時ちょうど。
江渡貝は椅子に、鶴見は江渡貝の背後のソファに座り、二人はテレビの画面を見つめていた。
「うんうん、今日は私も出番があったはず」
二人は色違いのマグカップを持ち、じっと画面を眺めている。
「そういえば、僕ももう一度鶴見さんとお話する予定があるんです。これってネタバレになっちゃいます?」
江渡貝はそう言いながら鶴見の隣に移動した。ストンと座るとじっと鶴見の方を見つめる。
「うんうん」
返事はあっさりしており、本当に話を聞いているのだろうかと江渡貝は考える。
しかし、鶴見は手を滑らせると、そっと江渡貝の手の甲をさする。
やがて二人の見ている番組は終わり、江渡貝は満足げに背筋を伸ばした。
「うーん、楽しかったァ。そういえば、去年は二人でダンスをしましたけど、今年は……」
「今年?」
鶴見は江渡貝の手を持つと、そのまま立ち上がった。
つられて江渡貝も立ち上がる。
「今年も、来年もふたりで踊ればいいじゃないか」
くるりと体を引き寄せられた江渡貝は、鶴見のペースに流される。
二人は少しだけ踊り、ゆっくり体を寄せあった。