鶴江鶴 永遠に麗しく、菫の花よ 現パロ7(最終更新5/26)

鶴見が今日、江渡貝と観ようと選んだものは去年話題になっていたアニメ映画だった。
恋愛要素は薄いが、映像も良く評判も良い作品だ。
「わ、この映画観たかったんです」
江渡貝は映画のタイトルを見た瞬間うれしそうに両手を合わせていた。
「私も観てみたかったんだ、楽しみだね」
楽しみだね、と言いながらも実は鶴見自身は先に映画の内容をチェックしていた。
というのも、恋愛要素は薄いとインターネット上のレビューに書いてあってもあまりにもセクシーな場面が紛れていたら、気まずい空気になるのではないかと危惧していたからだ。だが、作中、手を繋ぐ程度の描写のみで、江渡貝と一緒に観ても安心だろうと判断し、これにしたのだ。
アニメが始まる前に鶴見は冷蔵庫からお茶のはいったグラスを二つ運んできた。
それから、映画のおともにポテトチップスと、甘党鶴見用のチョコラングドシャを少々。
鶴見はソファに座り、DVDのリモコンを操作する。
「じゃあ観ようか」
「えへへ」
映画が始まってすぐ、江渡貝はじっとテレビの画面を見つめていた。
星空を見上げる場面では、江渡貝のキラキラした瞳にその星空が映り込んでいた。
ラストシーンに向かい物語は加速していく。
きっとこの先の別れは来る。そう予測させるような伏線がいくつも張り巡らされており、観るものはその伏線を回収する様子をただ見守ることしかできない。
二人の恋は成就する手前で別れの時間が来てしまった。
「……っ」
江渡貝の小さな声に気付き、鶴見はそっと目線をそちらに向けた。
茶色い瞳からは涙が流れている。
しかし、場面が変わり数年後の世界に話は変わる。
先ほどまでの、薄暗い世界はからっとしており、晴れ晴れしていた。
江渡貝は急な場面展開にきょとんとしている。
次に出かかっていた涙を拭い、画面の中で何が起こるのかと真剣な顔をしている。
するとそこには、数年後に運命的に恋人関係になれた二人の姿が映し出されていた。
ほっとした顔の江渡貝をみて鶴見も安堵の溜息を吐いた。
エンドロールには主題歌が使われている。幸せそうな江渡貝の様子は見ていて安心する。
「面白かったね」
「はい!」
「でも、鶴見さん……ちらちら僕のこと見てませんでした?」
「見てないよぉ」
「だって、なんか……もう、いいですッ!」
鶴見に見つめられていたのは事実だろう、と江渡貝は考えている。
しかし、よく考えればそれは結構照れくさい出来事なわけであり、江渡貝は急に恥ずかしくなり話題をそこで打ち切るのであった。

「あぁ、そうだ。そろそろお菓子の時間にしようか」
鶴見はソファから立ち上がるとそう言った。
江渡貝も鶴見の後ろを追って、ぱたぱたとついて歩く。
丁寧に片付けられているキッチンに入れば、大きな皿にふんわりしたケーキが乗っていた。ふわりとほどよく膨らんだ、アールグレイの香りのするシフォンケーキだ。
「シフォンケーキ! 鶴見さんが作ったんですか?」
「うん」
すごい、と江渡貝は鼻息を荒げた。
マカロンなどと比べれば難易度は低いが、シフォンケーキもメレンゲを泡立て、温度調整をし、大きな気泡が入らぬように注意しながら作らなければならない。少々手間のかかるお菓子なのである。
「うまくできているといいんだけど」
そう言いながら鶴見はシフォンケーキに包丁を入れて、小皿に取り分けた。
中はふわりと綺麗に膨らんでおり、きめ細かい気泡が見える。江渡貝は思わず唾を飲み込み切り分けられていくケーキを覗き込んでいた。
「ケーキを先に運んでもらっても良いかな?」
「はい!」
「お茶もアールグレイでいいかな~」
「はい!」
とん、とんとケーキの皿を並べて、フォークを二つ並べる。
恋人らしいな、と考えて江渡貝は一人でにやにやしてしまう。
「シフォンケーキ好きなの?」
「え?」
「ん、嬉しそうだったから」
にやけたままの江渡貝の向かいに鶴見は座る。隣り合わせに座れるようにしておけばよかったと思いながらもティーポットとティーカップ……もといマグカップを二つテーブルに置いた。
えへへ、と江渡貝は曖昧に笑うと答えを濁した。鶴見さんと恋人になれるなんて、それが嬉しくて浮かれているなんて恥ずかしいしかっこ悪くて言えない。江渡貝は思春期男子らしい考えも持ち合わせているロリイタ系男子高校生であった。
なんだか誤魔化されているような気がするな、と思いながらも鶴見も江渡貝の向かいに座る。紅茶を注ぎ、二人目を合わせるのを合図にケーキを一口食べた。
シフォンケーキはふんわりと空気を含み膨らんでいて、香り高い茶葉を選んだのだろう。一口口にすれば、柑橘香るアールグレイの香りが口いっぱいに広がった。
控えめな甘さだけれども、心地いい。ほんのり卵の存在も感じさせて優しい気持ちになる味だ。一口ごくりと飲み込むと、江渡貝は頬をおさえた。
「鶴見さん……これ、すっごく美味しい」
人は本当に美味しいものを食べたとき、頬は落ちないものの頬を押さえてしまうのかもしれない。江渡貝はお世辞ではなく続けた。
「あの、これ、今まで鶴見さんと食べたケーキの中で一番かもしれません。甘くって、優しくって、鶴見さんに大好きって言いたくなる……」
「え、えどがいくん」
鶴見は褒め殺しにされ、もう恥ずかしいからやめてくれ、と両手で顔を覆った。
「あ、あ、僕ったら……!」
しかし、興奮気味の江渡貝は「でもやっぱ鶴見さん大好きです!」と言いもう一口ケーキを食べる。にこにこと自分の作ったケーキを食べてくれる江渡貝に鶴見は嬉しくて仕方ない。それに加えとどめの一言「鶴見さん大好き」である。
自分で作ったケーキの味がよく分からないまま鶴見はぼんやりと江渡貝のことを見つめてしまう。
「鶴見さん……」
すると恥ずかしそうに江渡貝は鶴見を呼んでいた。
「は、はい? なんでしょう」
突然現実に引き戻された鶴見は思わず敬語で返事をする。
「あの……おかわり、しても良いですか」
甘党を極めお菓子作りにまで手を出した鶴見には嬉しすぎる言葉であった。
「うん、持ってくるからまってて」
「一緒にいきますっ!」
今度はぼうっとせずにおかわりをする江渡貝と談笑しながら鶴見もケーキを食べる。
浮かれているのはお互い様なのかもしれない。鶴見は江渡貝の耳が真っ赤になっているのに気が付いた。かわいい、と思っている鶴見の耳元も赤みを帯びている。
ようやく両想いを知った二人の甘いティータイムはのんびりと過ぎていった。
気が付けば、窓から見える空は薄暗くなっていた。
「あぁ、もうこんな時間だ」
「そうですね、今日もあっという間に一日終わっちゃいました」
くすくす笑う江渡貝を穏やかな気持ちで眺めていた鶴見はある重大なことに気が付いた。
「あ……夕食の準備を忘れていた!」
目を真ん丸にして叫ぶ鶴見に対して、そんなにそこは大事なところだったのか、と江渡貝はぎょっとする。
「今日は江渡貝くんの胃袋を掴みたかったの」
はぁ、と拗ねるように鶴見は言った。しかし、江渡貝としては先ほどのケーキで十分に鶴見に胃袋を掴まれている。これ以上何を掴むんですかと、江渡貝はあきれたように言った。それから、鶴見をフォローするように続ける。
「それなら、そこに見えるお弁当屋さんのお弁当にしません?」
「うん」
まだ少し拗ねた子供のような顔をしているが、鶴見はしぶしぶ承諾した。
「じゃぁ、上着とってきます」
「うーん、待って。私一人で行った方が安全かもしれないな。時間帯もちょうど夕食時だし、もしかしたら知人に会うかもしれん」
「そっか……じゃあせめて僕だけで」
「私のマンションだし、もしもここに出入りしているのを見られたら?」
ここは高校の近所でもある。もしもここの住人でもない江渡貝が出入りしているのを他の保護者や生徒に見つかれば恐ろしいことになりかねない、江渡貝は自分の軽率な考えを反省した。
「そうですよね、わかりました。えっと、じゃぁ僕はお留守番してますね」
明るく答えると、鶴見は表情を和らげ、スマートフォンの画面を江渡貝に見せた。弁当屋のメニューが載っているようだ。
「メニューはこんな感じみたいだけれど、どれにしようか」
きょろきょろと視線を彷徨わせた江渡貝はハンバーグ弁当を指さした。
「ハンバーグのにします」
「了解。じゃぁ、少しの間、お留守番よろしくね」
鶴見はジャケットをするりと着こなすと颯爽と玄関を出て行った。
「鶴見さん、早く帰ってこないかな……」
そう言いながらも江渡貝はあることに興味津々だった。
それは鶴見の持ち物だった。リビングにもたくさん本が並んでいるけれど、じっくりは見てはいない。もしかしたらえっちな本もあるのではないか。
江渡貝は誰かがいるわけでもないのに抜き足差し足で本だなに近づいた。すると早速表紙をひっくり返しておいてある本を見つけてしまう。
そっとそれを抜き出して、江渡貝は慎重に表紙をめくる。
そこに書いてあったのは男同士で肌を触れ合わせる方法について書かれた指南本であった。その他にも数冊同じような本があったが、それ以外は料理の本や勉強に関する本だ。
だが、その中でも江渡貝が気になったのは「相手を気持ちよくさせる」というフレーズが書いてあった本だった。内容は気になるが、鶴見が帰ってきてしまい勝手に本棚をみているのがばれてしまったら困る。江渡貝はドキドキしたまま、本をもとに戻した。
そして、鶴見が帰ってくる前にソファに座ってスマートフォンを眺める。
今日までの鶴見とのやり取りを見返してはドキドキし、帰ってくる彼を思えばドキドキした。
がちゃ、と音がする。
扉を閉めた音の後にただいま、と鶴見の声がした。深く耳に気持ちいい声だ。
「ちょっとお店が混んでいて、時間かかってしまったんだ」
そう言っている鶴見は二つ袋をぶら下げている。
「そっちは何か必要なものあったんですか」
何気なく訊いたが、鶴見は「あぁ、文房具」とだけ答えた。
ジャケット脱いでくるから、とお弁当の入った袋だけ置いていくと鶴見は一旦自室へと戻っていった。先生をやっていると文房具って必要だもんな、と江渡貝は納得しながら、ふわりふわり食欲を誘うにおいを発している弁当箱をじっと見る。
人間の性欲、睡眠欲、食欲のうちの食欲が激しく刺激されている状態の江渡貝は溢れんばかりの唾液を飲み込みながら鶴見を待っていた。
数分もしないうちに鶴見はリビングに戻り江渡貝の方へ向かってきた。
弁当の入った袋を持ち、テーブルへ向かう。
「こっちは江渡貝くん、こっちは私の」
ふんふん上機嫌に弁当箱を置く鶴見を江渡貝は頬杖ついて見つめていた。
「鶴見さんって時々様子が可愛いですよね」
うふふ、と江渡貝は笑って首をこてんと横に倒した。
「そうかなぁ……」
釈然としない表情で鶴見は「君のほうが可愛いに程近いよ」と呟く。
教室の真ん中で女子達が話している内容を聞く限り、もっとも、可愛い可愛くない論争をしていても終わりはない。
「そんなことより……」
いただきまーす! と江渡貝は弁当箱を開けた。
ほくほくの肉厚なハンバーグが入った弁当だ。小さな人参や、ミニサラダが添えられており、見た目からも美味しそうな弁当だ。
「私も、いただきまーす」
そう言って迎え側の鶴見も弁当箱を開いた。中身は江渡貝と同じハンバーグ弁当だ。
「同じですね」
「うん、同じだ」
二人は箸を持つとくすくす笑いながら弁当を食べ始めた。
出来立てのハンバーグなのだろう。分厚いハンバーグを箸で割れば、じゅわと肉汁が染み出てきた。肉汁はハンバーグの下の白米に染みていく。
江渡貝はまず、ハンバーグを口にした。熱々の蒸気が口の中に広がる。はふはふとしながら味わえば、ほのかにクミンや香辛料の香りが口の中に広がった。それから、肉汁と、ハンバーグのソースがしみ込んだ白米を箸ですくいとる。
白米だけでもきっと美味しいのだろう。甘い米に、肉汁のコク、そしてえハンバーグソースに使われている甘い玉ねぎの味がしみ込んでいる。
「お、美味しい……」
江渡貝はそうつぶやくと、ミニサラダや人参も食べてみる。少々味の濃いハンバーグだからこそ、シンプルな白米、控えめな甘さの人参やさっぱりしたミニサラダが合っている。
「これは……癖になるな。うちの近所にこんなに美味いところがあったとは」
うむ、と目を瞑り味わう鶴見を江渡貝は眺める。
「今日は食べてばっかりで、太っちゃったらどうしよう」
「大丈夫じゃないかな。むしろ江渡貝くんはやせぽっちだから私からすれば心配なんだが」
「でも……お洋服が入らなくなったら僕、悲しいです」
「もう、一日くらいは大丈夫だよ」
「ふふ、そうですね」
「はぁ、それにしても、夕食も食べたしなんだか眠たくなってきた」
ドキリ、とする江渡貝
「た、たしかに!」
妙にハイテンションに答える
「そろそろお風呂に入ろうか?」
お風呂に入ろうか、と尋ねられ江渡貝は顔を真っ赤にした。
「お、お風呂ですよね」
「うん。沸かしておくから先に入っていいよ」
「あ、そ、そうですよね」
期待をしていた江渡貝はほっとしたような、がっかりしたような顔をする。
「もしかして、一緒に入ると思ってた?」
「いいえ! そ、そんなことないですっ!」
江渡貝は首をぶんぶん振りながら後ずさった。
分かりやすい反応が可愛いな、と鶴見は思いながら、風呂を沸かし、脱衣所にタオルなどを準備しておく。
「タオルとかは脱衣所に準備してあるから使ってね。その他になにかあれば呼んでくれれば行くから」
「はーい」
少し安心したのだろう、江渡貝はゆったりした声で返事をする。
「あ、そろそろお風呂が沸くみたい」
「それじゃぁ、お先に入らせてもらいますね、鶴見さん」
一度自分の部屋に戻ると、江渡貝は寝巻を取り出し、脱衣所へ向かった。
風呂場はゆったり広く、江渡貝が来ることも想定していたというのもあるのだろう。
綺麗に整えられており、ふわりと良い香りがした。きっと普段鶴見が使っている石鹸やシャンプーの香りなのだろう。洗面器を使い、体を洗い流し、江渡貝はまず浴槽に浸かる。
大好きな鶴見と恋人同士になれた安心感もあるが、やはりまだまだ緊張しているからだろう。肩や腰の凝ったところに暖かい湯が染みる。
それから、洗い場に出てシャンプーをする。詰め替えられてはいないが、どこかオーガニック系のシャンプーなのだろう。微かに香るラベンダーの香りが心地よい。
同ブランドのコンディショナーで髪を整えると、いつもとは違う手触りになっていた。やはり社会人になるとお金があるんだな、と江渡貝は自分の髪に触れながら考える。
そして使いかけで少し削れた石鹸を手にする。今鶴見と同じ石鹸を使っているのかと思うと不思議な感覚になった。この肌から、鶴見と同じ香りがする。
まるで鶴見と肌を重ねているようで、と考えたところで江渡貝は邪念を吹き飛ばすように、洗面器いっぱいに汲んだ湯を頭から浴びた。
「でも、もしかしたら……」
江渡貝は浴室の中で小さく心細そうに呟いた。
「うーん、のぼせたかな」
しかし、気持ちを切り替えるようにきりりと眉を上げ、江渡貝は浴室を軽く洗い流し、脱衣所へ出た。マットの上で持ってきた下着とゆったりとしたルームウェアを身に着ける。ルームウェアまではふりふりにはしておらず、白いシャツにグレーのズボンというシンプルな寝巻だ。

「鶴見さん、お待たせしました」
「おや、早いね」
脱衣所で軽く乾かした髪がしっとりしていていつもと違う雰囲気になっている。
鶴見は立ち上がり江渡貝の髪をわしゃわしゃ触ると満足そうに江渡貝を抱きしめた。
「おんなじ匂いだ」
「へへ……」
嬉しいけれど恥ずかしくて江渡貝は笑ってごまかしてしまう。
「じゃぁ、私も行ってくるから。もし暇だったら、そこの本棚に色々あるし、テレビのリモコンも置いておくから」
「は、はい」
本棚と言われ江渡貝はぎくりとした。しかし、勝手にあの本を見つけてしまった後ろめたさから本棚の本を読もうとは思わなかった。鶴見に手渡されたリモコンを持って呆然としていると、風呂場の方からさっそく鶴見の入浴する音が聞こえてくる。
どうにも居難くなった江渡貝は鶴見の入浴音をかき消すために、テレビの電源を付ける。夜のバラエティ番組はちょうど終わり、ニュース番組に切り替わる時間になっていた。
それでも直に入浴音を聞くよりは健全だろうと、江渡貝は地方の名産物の話などを眺めて鶴見のことを待っていた。ニュースを見ているうちに緊張も解けてうとうとしていたところに「おまたせ」と鶴見の声が聴こえた。
ふわり、と鶴見からは江渡貝と同じような香りがしている。
同じ香りのはずなのに、少し違う。鶴見の体臭もほのかにする、優しい包み込むようなラベンダーの香りだ。江渡貝は鶴見の持つ雰囲気にのまれ、うっとりした瞳で鶴見を見上げていた。
しかし、鶴見は、そんな江渡貝のことは気にも留めず、江渡貝を見ると口を開く。
「江渡貝くん、今日はもう疲れたろう」
「え、あ、はい……」
「そろそろ寝ようか」
「え!?」
江渡貝は思わず「一緒に?」と訊きそうになる口を押えて目を大きくした。
だが、鶴見は自分の部屋の方へ向かっていってしまった。
「じゃぁ、おやすみ。ゆっくり休むんだよ」
邪な期待をしていた江渡貝はもう一度目をぱちくりさせた。
そして、江渡貝はそう言ってドアを閉めようとしている鶴見を追いかけた。
「ま、待って、鶴見さん」
「うん?」
鶴見は江渡貝の様子にも考えていることにも気づいていた。
しかし江渡貝はまだ幼い。傷付けないためにもこうして、劣情には目を背けていた。
「あ、あの」
だが、鶴見の努力も虚しく、江渡貝は今着ているシンプルな寝巻を脱ぎ捨てる。
「え、えどがいくん?」
「鶴見さん、へ、変ですか?」
鶴見の目の前に現れたのは可愛らしいベビードールを身に着けた江渡貝の姿だった。
肌がすけるほど薄いピンクのベビードール。パンティはレースとリボンがふんだんにあしらわれている。
胸元には花を模ったエンブロイダリーレース、可愛らしく切り替え部分にはリボンが飾られている。セットのものなのだろう、パンティもたくさんの花のレースが付いており、パンティの両端にはリボンが付いている。また、よく見ると胸にはブラジャーを付けていた。同じシリーズで買ったのだろう。同じ模様の花が見える。
可愛らしいけれど、それ以上に色っぽい格好だった。
鶴見は思わず唾をのむ。
「鶴見さん、僕、鶴見さんと……」
鶴見は言わずとも江渡貝の次に言いたい言葉は分かっていた。
今日、家に来た時にちらりと見えてしまったコンドームを思い返して鶴見は目を閉じた。
この子を、まだ幼いところの多い江渡貝と関係を持ってしまっていいのだろうか。
鶴見は江渡貝の次の言葉を待つ。
「鶴見さんと、えっちしたいんです」
ぎゅっと江渡貝は両手でベビードールの裾を掴んでいた。
勇気を出して言ったのだろう。鶴見に断られるのを恐れるように江渡貝の手は震えていた。なんて儚くて可愛らしい子なのだろう。すぐにでも抱きしめてベッドに引き込みたい気持ちを抑えて鶴見は口を開いた。
「江渡貝くん、その……君は私とセックスしたいってことだよね」
江渡貝はこくん、と頷いた。江渡貝の両目からぽろぽろ涙が落ちていく。
鶴見は江渡貝の手の甲に触れた。彼を落ち着かせるように手の甲を撫でながら話を続ける。
「うん。江渡貝くんとそういうことができるのはすごく嬉しい。だけど、その、すぐには難しいと思っていたし、今日まさかこんな風に江渡貝くんが可愛らしく言ってくるなんて思いもしなくて……その、男同士でのセ、セックスの準備はできていないんだ」
そう、江渡貝はよく知っていないが、男同士でのセックスにはローションやコンドームのほかに、徐々に慣らしていく必要がある。お互いに気持ちの良い体験で優しくしたいと思っていた鶴見としては、すぐにセックスは難しいと考えている。
「あの、こ、コンドームなら持ってきていて……」
「うん、知ってる。実は君の部屋を覗いたときに見えちゃって、ごめんね」
「うう、恥ずかしい」
「ううん、ちょっと嬉しかった」
緊張は解けたらしい。江渡貝は笑いながら「もう!」と言った。
「今度、ちゃんと二人で勉強していかないといけないね。でも、その折角そんな可愛い姿を見せられては私もさすがに」
もじもじと足を動かす鶴見を見れば、少々足の真ん中が膨らんでいる。
江渡貝はその様子に顔を真っ赤にする。
「男同士のセックスはちょっと難しいから今日はお預けだけれど、二人で身体の気持ちいいところを触れ合う程度ならできると思うんだ」
そういうのはダメかな、と鶴見は江渡貝を抱きしめて耳元に尋ねる。
耳に触れる吐息に江渡貝はびくりと反応を示した。
「実は私も、さっきお夕飯の買い出しの時にローションは買ってきていたんだ」
「ローション……」
少々の知識のある江渡貝は相変わらず顔を赤らめたままだ。しかし、鶴見に抱きしめられたことで鶴見と同じ場所が膨らみ始めているのを感じていた。
あまり膨らむと下着からそれがはみ出てしまう。恥ずかしいなと思いながらも鶴見に手を引かれ、鶴見の寝室へと入っていく。
セミダブルであまり大きくないベッドだ。しかし、二人が寄り添った状態ならば問題ないだろう。
「おいで、江渡貝くん」
鶴見に呼ばれ、江渡貝は鶴見のベッドの端に座った。

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