1108 いい歯の日 鶴江渡

「江渡貝くんの歯って白いね」
「そ、そうですか」
何ですか、藪から棒に。と江渡貝は続けた。
鶴見は江渡貝の口元をじっとみてにやにや笑いを浮かべていた。
何かまた、変なことでも考えているのだろう。江渡貝はそっと身構える。
「そんな警戒しなくても変なことはしないさ」
「べ、別に警戒してなんかいないです」
鶴見に考えていることを言い当てられ江渡貝は思わず口ごもった。
にぃぃと笑う鶴見の歯も白く、綺麗に並んでいる。
「鶴見さんこそ、綺麗な歯ですよね」
「そうかな」
鶴見はそう言いながら江渡貝に一歩近づいてもう一度にぃと笑って歯を見せた。
至近距離で鶴見の口元を見ているとなんだか変な気分になる。
江渡貝は理性をくらくらさせながら、鶴見の顔からそっと目を逸らした。
しかし、鶴見はそれを許さない、とでも言わんばかりに江渡貝の両頬を手で鷲掴みにした。
「いいかな?」
何が、と訊かなくても、鶴見のいいかな、の意味は分かっている。
江渡貝は好きにしてくださいと、観念したように答える。
やはり、そのまま鶴見の唇で、唇を塞がれてしまった。
そして、ぬるりと侵入してきたものはゆっくりと江渡貝の歯並びをなぞる。
変な感覚にぞくぞく背筋を震わせながら江渡貝は鶴見に抱き着いた。
「ふ……ん、ん」
腰のあたりの力が抜ける。
歯を舌で舐められるのは初めてのことだった。
「うん、良い歯だね」
鶴見は江渡貝から顔を離すと、自分自身の唇をぺろりと舐めて、そう言った。

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