1104 いいよの日 月江もどき

暖かな陽射し。午後2時。
人間はどうしても、食後かつ暖かで穏やかな時間帯になると睡魔に襲われてしまう。
急ぎの仕事があったとしても、連日の寝不足が重なってしまったとなれば、睡魔による眠気は増悪してしまう。
「ん……」
江渡貝も午後の眠気と戦う戦士のうちの一人であった。
椅子に座り、皮膚の破片を染める作業を行いながらも、頭はこくりこくりと船をこいでいる。
ついに眠気に屈してしまったのだろう。
江渡貝は少しだけ、と呟くとそのまま机に突っ伏してしまった。

江渡貝の部屋はしんと静寂に包まれる。
あまりにも静かな部屋の様子に心配になったのだろう。
月島は江渡貝の部屋の前に立って様子をうかがっていた。
扉に耳を近付けて中の音を聴いてみる。
しかし何も音は聞こえてこない。
ついに何かあったのでは、と心配になった月島は江渡貝の部屋の扉をノックし、部屋の中へと入った。すると部屋の中にはすやすやと寝息を立てて、椅子に座ったまま机に突っ伏して、心地よさそうに眠る江渡貝がいた。
眠る直前まで作業をしていたのだろう、江渡貝の爪先は染料で黒く染まっている。
月島は江渡貝の部屋にあったひざ掛けを手に持つと、江渡貝の方に近づいて行った。
さすがにそのまま眠っていては体が冷えてしまうだろう。ひざ掛けでもかけておいてやろうと思ったからである。ぎしぎしと鳴る床を進んでいけば、江渡貝は小さくうめいた。
「ん……!」
月島の気配に気づいたのだろう。江渡貝は薄っすら目を開く。
色素の薄い瞳が月島を捉えると、江渡貝はうわぁぁと跳ね起きた。
そして、脂汗を額に浮かべて目を丸くした。
居眠りをしていて怒られると思ったのだろう。
「つ、月島さん、ごめんなさい!!」
「ん?」
「そ、その居眠りしちゃって……」
「あ、あぁ。そんなことか」
月島は江渡貝が夜遅くまで偽物作りで起きているのを知っていた。
「居眠りくらい、たまにはいいだろ」
江渡貝くん、君は頑張りすぎだよ。
そう続けると月島は江渡貝にひざ掛けを渡す。
「ひざ掛け……?」
「眠っている君にかけようと思っただけだ」
「あ、りがとうございます」
「江渡貝くん、今日はもう休んだらどうだ」
月島の言葉に江渡貝はきょとんとした。
「めずらしい」
「疲れたまま仕事をさせて倒れられたらこちらが困る」
そう言いながらも月島は照れくさそうに江渡貝から目をそらしていた。
「それなら、もうすぐ3時ですし、お茶でもしませんか」
江渡貝の言葉に月島は少し表情を緩めた。

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