1127 つるえど

「おはよう」
「おはようございます」
江渡貝と鶴見は顔を見合わせた。まだ起きたばかりの二人は髪型が乱れている。
掛けていた毛布をよけ、身を起こす。
お揃いの寝巻の二人は、外気の寒さに身を震わせた。
寝床から起き上がると、二人はぺたぺたと裸足で床を歩きはじめる。
「僕たちだけでしょうか」
「どうやらそうみたいだね」
江渡貝たちの辺りには棺のような形状のものが無限に並んでいる。
江渡貝と鶴見もその中から今しがた出てきたばかりである。
現在は3030年。
地球から遥か遠く離れた火星に人類は移動していた。
しかし、人々が移り住み、生きていくためには火星の環境を整えねばならなかった。
だがしかし、火星の環境を整えるのを待っている間に地球は消失してしまう。
そのため人類は最小限のエネルギーで火星環境が整うまで、コールドスリープすることになったのである。
だが、コールドスリープは必ずしもうまくいったわけではないようだ。
各家族(及び恋人関係にある者同士)が寄り添い、コールドスリープのポッドに入っている。そして、各地域ごとの宇宙船に乗って運ばれてきた。
しかし、江渡貝たちのいる船の中、少なくとも江渡貝たちの地域の人間で目覚めているのは江渡貝と鶴見の入っていたポッドだけのようである。
「とりあえず、外に出てみようか」
「はい」
「ねぇ、鶴見さん」
「ん?」
江渡貝は鶴見の寝巻の袖を引いた。
寝巻、といえども、多少の気温変化や環境変化に順応できる素材で作られたものだ。
「火星に、動物はいないんでしょうか……」
不安な声で江渡貝は聞いた。
江渡貝はかつての地球で希少となりつつある、生物を剥製にする仕事をしていたのだ。
「そうだねぇ」
鶴見は顎髭を撫でた。
「少なくとも鶴見篤四郎という男はいるけれど、だめかな」
鶴見の冗談に江渡貝は口元を緩める。
「そうでしたね」
二人は宇宙船の扉に向かい歩いて行った。
この日、はじめて人類移住計画で輸送された人類が火星の土地を踏みしめた。

急にSFですみません。
27日は火星探索機マルス2号が火星に到達した日らしいです。

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