江渡貝くんと鯉登くん

外で遊んだことがあっただろうか。
少なくとも物心ついた頃には僕は家の中で過ごしていたように思える。
記憶が正しければ、かつていち時期だけ、僕の家に日本人の少年が遊びに来ていた時期があった。
歳の近い、どこか軍人家系の子供だっただろうか。
言葉はどこか地方のなまりがあったが、丁寧な言葉使いに小綺麗で丁寧に扱われた服装が印象的だった。
母から受けた去勢がより僕の心身を中性的なものにしたのだろうと思っているが、それ以前から服飾には興味があった。
だからその子のことを覚えているのかもしれない。
彼は僕の家に来るとつんととがった眼を向けて、変な眉毛を釣り上げて「おい、お前」といった。
初対面のくせにそんな風に話しかけられるのは怖かった。
僕自身母の教育方針もあり、同世代の友達がいなかったことにも起因しているかもしれない。
少年は小脇にボールを抱えていた。
「フットボールって知ってるか」
ぎっとした顔つきのその子は健康的に焼けた肌なのかもともとのものなのか、褐色の肌がまぶしい子だった。
フットボール、と聞いて僕は父の読んでいた外国の雑誌を思い出す。
屋外で数人で行う競技ということは知っていたが、詳細は知らない。
「ううん、知らない」
僕が知らないというと彼はちょっと得意げな顔をした。
「教えてやる」
彼なりに僕に気を使ってくれていたのだろう。少しイントネーションの変わった話し言葉に親しみを覚えた。
「うん」
「そういえば、名前は?」
「やさく」
「ふうん」
「おとのしん」
「へ?」
「おいの名前」
あの子はいまどこで何をしているだろう。
僕はまた、遠い記憶に思いをめぐらせた。

おわり

Share this...
Tweet about this on Twitter
Twitter
Print this page
Print