鶴江渡 さくらのはくせい(サンプル)

原作沿い・鶴江渡
一日だけ小樽から鶴見さんが帰ってきて、江渡貝くんを甘やかす話です。
成人向け描写があります(サンプル後半参照)。
自家通販→こちら

大量の服に埋もれ、江渡貝はうめいていた。
「うーん、ダメだ……」
「朝からかれこれ一時間、服装なんてなんでもいいだろ」
うめく江渡貝の隣で、月島はあきれたように言った。
江渡貝は、アーガイル柄の黄色いニットに、綿のズボンを着ていた。
どうやら江渡貝はこれから着替える服装を考えているらしい。月島は賭場などに潜入捜査へ行く際に、変装することはあるが、江渡貝と比べると服装に無頓着だ。
月島の硬い表情の後ろには面倒くさいという言葉が透けて見える。
一方で、江渡貝は日々剥製を作るかたわら、人皮服を作っており、服装はこだわりがある。そのため、敬愛する鶴見に会う時の服装は特に重要なのである。
「だって」
江渡貝は胸の前で合わせた手を震わせた。
「だって鶴見さんに会うのに、こんな服じゃ顔を合わせられませんっ!」
前山は困り眉を一層傾けながら、江渡貝が放り投げた人皮のシャツを指先で摘み上げた。
「そんなこと言ってないで仕事しなよ、江渡貝くん」

着たい服が決まらないという悩みは、服装にこだわりのない月島と前山には少々理解しがたい悩みである。
そもそも鶴見は江渡貝自身に興味はあるが、江渡貝の服装にはさほど興味はないだろう。月島はうんざりしたように小さくため息をついた。
江渡貝は鋭い目で月島をにらみつける。
「ふたりとも、どうして久しぶりに鶴見さんに会うのにそんなに平然としていられるんです」
江渡貝は上擦った声で言った。
月島たちからすれば、日頃仕事を共にしている上官が相手である。たしかに、鯉登や宇佐美のような熱心な鶴見狂いの男たちが身近にいるため、江渡貝のような人物は多い。
鶴見自身も自分自身への熱いまなざしには気が付いており、各々へ気をかけている。しかし、江渡貝のような一時的に関わった一般人へ肩入れしているのは珍しい。
江渡貝の創造物はやや理解し難いものが多い。しかし、職人としての才能と仕事ぶりは目を見張るものがある。
月島自身も江渡貝の仕事ぶりは尊敬している。
だが、ここのところ鶴見から江渡貝へ向けられている感情は尊敬や気遣いだけではないように見える。
仕事仲間というよりも二人の間に感じられる空気は情愛に近いものなのではないか、と月島は感じていた。
実際、江渡貝と鶴見は恋人同士であり、月島の憶測は当たっている。
「今着ているニットで良いじゃないか」と月島は言いかけたところで、部屋の外からコンコンコン、と玄関の扉を叩く音がした。ノック音に江渡貝の肩が跳ねた。大きく開いた瞳は光り輝いている。
「あぁっ、きっと、鶴見さんですよっ!」
江渡貝はびりりと背を震わせると、玄関へ駆けていく。
あんなに服装に悩んでいたのにも関わらず、シャツとニット、そして黒いズボンというシンプルな装いで部屋を飛び出していく。
愛する鶴見への気持ちが爆発しているらしく、先ほどまで気にしていた服装どころではないようだ。
これだけ機敏に動けるのであれば、軍人も向いているかもしれない、と月島は江渡貝の背中を見送りながら考える。
江渡貝はバタバタと玄関へ向かい、扉を開けた。
隙間から外を覗くように顔を出せば、そこには鶴見が立っていた。
「……鶴見さん」
江渡貝は目を輝かせ、鶴見を見つめて固まった。
「久しぶりだね、江渡貝くん」
元気だったかな、と鶴見はポカンと口を開いたままの江渡貝に向かい小首を傾げた。
江渡貝から見た鶴見の背景には毒々しく美しく咲く芥子の花が広がっている。
「月島軍曹から、連絡を受けたんだ。江渡貝くんが私に会いたいと言っていたようだったから、会いに来たんだよ」
一日だけだけどね、と付け足し鶴見は江渡貝の顔を覗き込んだ。赤く染まった頬を隠すように江渡貝は顔を伏せる。
顔を上げることもできず、江渡貝は黙って俯いていた。
鶴見はそんな江渡貝をにこにこと見守るように眺めていた。久しぶりの再会に照れる恋人が可愛くて仕方ないようだ。
鶴見は江渡貝の頭を抱き寄せ、茶色い髪に触れ、頭のてっぺんに鼻を寄せた。
「鶴見さん」
鶴見の胸板に鼻を付けたまま江渡貝は鶴見の名前を呼んだ。甘えるように鶴見の背中に手をまわし、江渡貝は深く息をついた。
鶴見の胸にぐりぐりと顔を埋める江渡貝に、ぐぅぅと異音が聞こえていた。
時間はちょうど十二時半。鶴見の腹の音が鳴ったらしい。江渡貝は鶴見の腹を撫でながら左耳を寄せた。
「ふふ、お腹すいているんですか」
「あぁ、まだ昼食は食べていないんだ。江渡貝くんはもう昼ご飯は済ませてしまったかい?」
「いえ、まだです」
「それなら」
いったん、鶴見は言葉を止めた。鶴見に抱きついている江渡貝からは見えないが、廊下のはしからひょこっと月島の丸い頭が見えていたからだ。
なかなか戻ってこない江渡貝が心配で玄関先まで出てきたらしい。浮かれている江渡貝はまだ、月島の存在には気付いていないようだ。
月島はいちゃつく二人の間に入りにくいらしく、声をかけるべきか悩んでいるようだった。
そんな様子を察した鶴見は、月島の妙に丸く形の整った頭を眺めながら、月島の名を呼んだ。
「月島軍曹」
「鶴見中尉殿」
月島の声に江渡貝は身をびくつかせると慌てて鶴見から身を離した。
そして一瞬で何事もなかったかようなすませた顔を作ると落ち着いた声色を作る。
「月島さん、いたんですか」
しかし、鶴見と身を寄せ、甘えている姿を見られ、恥ずかしかったのだろう。
声は微かに震え、その顔は赤く染まっていた。
「そうだ、月島」
鶴見の視線は月島へ移った。固く張った月島の声が「はい」と答えた。
「これから、江渡貝くんと食事に出ようと思うのだが。ここの護衛を任せて出かけてきても構わないか?」
「あぁ、大丈夫ですよ。前山とこちらに居ます」
月島の声は先ほどよりも幾分か柔らかい。
鶴見の言わんとすることをすべて理解しているのだろう。微かに赤く染まった江渡貝を確認し、表情を和らげた。
「良いかい、江渡貝くん」
鶴見は江渡貝に手のひらを差し出した。江渡貝は鶴見の手のひらに自身の手を添えて頷いた。
「コートを持ってくるからちょっと待っててもらえますか」
江渡貝は両手で鶴見の手を握りながら言った。小動物のような動きが愛らしく、鶴見は思わず頬をほころばせた。
江渡貝は小走りで奥の工房から持ち出したコートに腕を通しながら鶴見の隣へ立つ。
「お待たせしましたっ」
びしっと背筋を伸ばす江渡貝は、大好きな飼い主と散歩に行く子犬のようにも見える。
目の中に星を輝かせながら鶴見を見つめる様子は見ていて微笑ましい。
「じゃ、行ってくる」
鶴見の隣の江渡貝からは幸せそうだ。
二人の様子を見送ると、月島は館の中へと戻っていった。

剥製を扱う工房では、作業の音や、動物のにおいがする。そのため、江渡貝の家は夕張の中心で人の多い町から少し離れた場所にある。木々の生い茂る道の奥にひっそりとたたずんでおり、墓場にも近い。
じめじめした雰囲気も感じられるが、春先には桜が咲き、夏には木々の間から優しく感じられる場所でもある。
洋館から一歩外に出れば、暖かな陽ざしが木々を照らしていた。
今はちょうど昼時で一日の中で一番暖かい時間だ。
「江渡貝くんは何か食べたいものあるかい」
鶴見の問いかけに江渡貝はううん、と視線を斜め上に向けた。鶴見に会えたことが嬉しくて何を食べるかまでは考えていなかったからだ。
「鶴見さんは何か食べたいものってあります?」
「そうだなぁ。今はカレーを食べたい気分だ」
「あ、いいですね!」
「ここへ来るまでの道で洋食屋を見かけて気になっていたんだ」
「うふふ、楽しみです」
江渡貝は鶴見を見上げると、鶴見はじっと江渡貝の顔を見つめた。
「何です」
「特に何もないよ。ただ、表情がころころ変わっていくから面白いなと思っただけだ」
「お、面白いですか」
「あぁ、面白い」
鶴見は口ひげを撫でながら目を細めた。手で隠れているが、口元は嬉しそうに笑っている。
剥製とは違い、生きる人間の表情というのは流動的だ。暖かく心地良い春の陽射しを、風に乗って舞い散る桜の花びらを形に残せないのと同じように、移り変わる人の表情と感情は残せない。
だからこそ、人は愛することに夢中になるのだろうか。
江渡貝の家の敷地から市街地へ向かえば、段々と草木は減っていくが、人の往来は増えていく。
江渡貝の住む家の周りと比べると、炭鉱産業で栄えた夕張の町は活気にあふれている。

鶴見に出会うまで、江渡貝は町中というものは騒がしいと思っていた。
だが、こうして鶴見と並んで歩いていると、人の表情や笑い声も耳心地が良く感じる。
人々もちょうど昼食時なのだろう。すれ違う人々の口からは昼ご飯やら、腹が減ったというような単語が聞こえてくる。
しばらく道なりに進んで行けば、洋食と掲げられた看板が見えてきた。
店の軒先には洋食店の看板が掲げられている。店先にはアイスクリームありますと書かれた張り紙が貼ってある。
鶴見は顎に手を添えて深く何かを考えるような表情の後、ぼそり、とアイスクリームか……と呟いた。
江渡貝はまだ食べたことのないハイカラな食べ物の味を想像しながらアイスクリームと書かれた張り紙を眺める。
日本では明治初期頃に販売され始めたアイスクリームは、高級な食べ物だった。発売当初のアイスクリームは一人前が二元ほど。現在の価格に換算すると約八千円ほどだ。
文明開化の流れに乗り、アイスクリームを含めた西洋料理が普及し始めていたが、庶民が手軽に手を出せるほど安価なものではなかった。

西洋御料理と書かれているのれんを潜ると、西洋風に作られた店内に通された。
白いテーブルクロスを敷いた丸テーブルに、椅子が並んでいる。
日本髪を結わえた給仕が鶴見と江渡貝を窓際の席へ案内した。江渡貝は久しぶりの外食に緊張しているようだ。
不安げな表情で鶴見の顔をちらりと見た。
「どうかした?」
鶴見は江渡貝のほうを向いた。
江渡貝はもじもじしながら鶴見の顔を見直すと、恥ずかしそうに口を開いた。
「誰かと食事に行くのは久しぶりかもしれません。だからちょっと緊張しています」
「私を相手に緊張することはないだろ」
「だって、鶴見さんに会うのも久しぶりだし。緊張しちゃいますよ」
緊張する、と言いながらも江渡貝は鶴見のすぐ隣の椅子に座った。

<中略。以下、成人向け描写サンプル>

「ちっとも仕事も進んでいないのに、鶴見さんに甘えてばっかりで、いいのかな」
不安そうに呟いた。
「たまには息抜きも必要だからね」
「でも僕ばかり甘えているみたいで」
「たまには、たくさん甘えなさい」
何かして欲しいことはあるかい、と鶴見は江渡貝に尋ねた。
「えっと……」
江渡貝は下を向いた。指先をもじもじと絡めながら遠慮がちに口を開く。
抱きしめられている、近距離でそんなことを聞くのは鶴見のずるいところだ。
「頭を……頭を撫でて欲しいです」
あまりに無欲な願い事に拍子抜けしながら鶴見は江渡貝の頭に手を置いた。手ぐしで髪をとくようになでれば江渡貝は心地よさそうに目を細めた。
「他にはないのかい」
頭に触れたまま鶴見はもう一度きいた。
言葉の端には下心が透けて見える。江渡貝もまた、それを期待している。
「言ってごらん」
江渡貝の心臓がどきっと跳ねた。
江渡貝は目で鶴見の口元を見ていた。最後にあの唇に触れたのはいつだっただろう。
舌先が入り込んできて、口の中を突く感触を思い浮かべながら江渡貝は生唾を飲み込んだ。
鶴見は江渡貝の頭を撫でていた手を動かし、人差し指で江渡貝の耳の裏をなぞった。
くすぐったいような、ぞわぞわした感覚がする。髪の毛の毛先の先まで神経が敏感になってしまったかのようだ。
「せ……接吻をしたいです」
「これじゃぁ、わたしが甘えているみたいだ」
「それってどういう意味で……」
鶴見は江渡貝の輪郭に触れ、顎先に手を添えた。
じっと江渡貝の目を見つめてゆっくり顔を近付けた。
二人の影が重なり、唇が重なった。重ねるだけの口付けをすると、鶴見は顔を離す。江渡貝は夢心地の蕩けた目で鶴見を見上げた。ふにゃりと口元が緩んでいる。
「つるみさん、もっとしたいです」
江渡貝は鶴見の唇に人差し指を当てた。
鶴見の答えを待たずに江渡貝は鶴見の唇に自分の唇を重ねた。鶴見は江渡貝の唇をぺろりと舌先で舐める。誘いに応えるように江渡貝は薄っすら唇を開く。
息継ぎ代わりに浅く吐いた息は熱い。
鶴見は江渡貝の顎を掴むと、江渡貝の口の中へ舌をぬるりと滑り込ませた。狭く湿った口腔を舌で柔らかく掻きまわせば江渡貝は背筋を震わせる。
「江渡貝くん」
鶴見は江渡貝の肩を引き寄せた。腰を寄せるように江渡貝は抱き締められ、一瞬腰を引くが、鶴見は江渡貝を抱き寄せる。
江渡貝の太腿のあたりに鶴見の腰が触れた。ちょうどそこには硬く膨らんだ鶴見自身があたっていた。
江渡貝は困惑したような声で鶴見の名を呼んだ。
「あの、鶴見さんのがあたっていて」
「久しぶりに会ったら、反応してしまったみたいだ」
鶴見は後頭部を掻きながら答えた。
照れ臭そうに冗談めかしてそう言うが、耳元で聞く声はくぐもっていた。それに加え、太腿に感じる鶴見の陰茎の感触に江渡貝も妙な気分になり始めていた。
腹の奥から湧き上がり燃えるような、身体の芯を溶かすような感覚に腰のあたりが落ち着かなかった。
もじもじと揺れる江渡貝の腰に鶴見は思わず手を伸ばす。腰から足の付け根にかけて手を滑らせれば、江渡貝は深く息を吐いた。
「ぼ……僕も、久しぶりで、さ……触ってほしいです」
「どこを触って欲しいんだい」
「ここを……」
「ここって?」
江渡貝は言葉を言い淀んだ。わかっているくせに、と目で訴えかけるものの鶴見は気付かないふりをしている。
鶴見は江渡貝の足の付け根をなぞり、江渡貝を誘う。
「あ……」
鶴見は江渡貝を試すように江渡貝に意地悪に笑って見せた。去勢され、機能を失ったはずの身体の中心に熱が集まる。江渡貝は我慢できず、むずむずと両足を擦り合わせた。
「僕の……」
江渡貝は続きを言うのをためらい、一度言葉を止めた。触って欲しいところを言うのが恥ずかしかったからだ。
鶴見は江渡貝が欲情していることに気が付いている。
しかしながら助け舟を出さないのには理由がある。
江渡貝に恥ずかしい言葉を言わせたいのだ。恥ずかしいけれども、興奮する。意地悪をされているのに感じてしまう。そんな江渡貝のことを見透かすように、鶴見の手は江渡貝の足の付け根のあたりを撫でるだけだった。
「鶴見さん……触ってください」
「ちゃんと言ってごらん」
ちゃんと触れて欲しいところを言わない限り、触れてはくれないのだろう。江渡貝は太腿を擦り合わせながら鶴見を見上げた。
「ぼく……」
少しずつ鳥の羽の先でくすぐられるような刺激が焦れったくなり、江渡貝は羞恥心に胸を焦がしながらついに声を出した。
「ぼくの、お、おちんちん、触って、ください」
鶴見は意地の悪い笑みを浮かべると、ゆっくりと江渡貝の足の間に手を伸ばした。

続く

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