エレリ 君に恋する金曜日・番外編 君と恋する日曜日

*エレリ・現パロです。苦手な方はご注意ください。

春が過ぎ、夏が過ぎ。
気が付けば少し日没の時間が早くなってきた秋。木枯らしまではまだ遠く、気温だけは初夏の数字を保っている。   
春に芽吹いた初々しい恋だったがいつの間にか秋を迎え、最初こそ慣れずにどこか粗々しかったそれは、今ではすっかり二人の間に溶け込んでいる。
交際を始めた二人は同棲まではしていないが、休日には出掛けたり、時々お互いの自宅を行き来したりとゆっくりと愛情を育んでいた。もっとものんびりしすぎておりまだまだ清い仲、というところがお互い密かに悩んでいるところではあるが、この距離感も心地良い。物足りなさを感じているがリヴァイは悪くない、とも思っている。
これ以上関係が進まない原因としてはキスやハグは日常的にしているがどこか遠慮がちなそれに、リヴァイ自身も積極的に求められずにいるからだろう。そういうあいまいな態度も悪いのだろう、と思いながらもリヴァイは手元に意識を戻す。包丁に今日の昼食に使う野菜がまな板の上に並んでいる。
包丁が小気味よく野菜を刻む音。トントン、シャクリと繰り返すみずみずしい生活音。藍色のエプロンを身に着けて野菜を刻むリヴァイをエレンはうとうと頬杖をついて眺めていたが、おもむろに立ち上がると、リヴァイの方へと向かった。
「おい」
 リヴァイは少し重苦しく一言だけ発する。
リヴァイを背中から抱き込んで、エレンは長い腕をリヴァイの腹の前で交差させた。
べったりと甘えるような仕草は嫌いではないが、刃物を持っているリヴァイとしては危なっかしいし離れて欲しいとも思う。
「エレン、なんか用事か?」
 用事がないなら料理中だから離れろ、というニュアンスを込めていたのだが、どうにもエレンには上手くその意図は伝わっていないらしい。
「ん。なんでもないです。でも、なんかこうしているとオレ、思うんですけど」
 エレンは意味深に途中で言葉ととめる。こういう時はきまってエレンはリヴァイに甘えてくる。
ねぇ、と甘えるような媚びるような声がリヴァイの耳をくすぐる。心のうちをくすぐるようなエレンの声にどうしても鼻の奥、身体の奥がむずむずと気恥ずかしくなってしまう。
「俺は、こうしていると料理がし難くてたまらん」
しかし、このままではやはり料理は進まない。それから、照れ隠しの気持ちも半分混ざっているが、リヴァイは突き放すようにそう言った。
「そういうんじゃなく!」
 やはり甘い雰囲気に持っていきたかったのだろう。抗議の色を含む声がリヴァイの背中の後ろから帰ってくる。
「じゃあなんだよ」
どんな顔をしているのか考えるだけでも笑いが込み上げてくる。
リヴァイは喉の奥まで出かかっている笑いを噛み殺しながら包丁を置いた。
エレンはしっかりとリヴァイが包丁をキッチン台の上に置いたのを確認していたらしい。リヴァイの手の甲に自分の掌を重ねてリヴァイの手を自分のそれで握りこむ。
そんな風に甘えられたらこちらまで絆されてしまうじゃないか。流されているような気がして悔しいが、ふにゃりと口元を緩ませながらリヴァイはエレンを甘やかす。
肩の力を抜けば、それを察したのだろう。エレンの鼻息がふふ、と笑う。
「なんだよ」
 少し膨れた振りをして俯けば、エレンの手が絡められている手が目に入ってくる。恥ずかしいけれど、嫌じゃない。湯気を浴びたように顔の表面が熱い。変な汗が脇に滲む。
「こんな風にできるなんて思ってなかったから」
 どうかこの動揺に気づいてくれるな、と思うリヴァイに追い打ちをかけるかの如く、エレンはそっとリヴァイのうなじに唇を落とす。リヴァイは心臓が飛び出しそうなるのを堪えながら、気持ちを抑え込むように低い声でエレンを諌める。
「お前って突然そういう恥ずかしいこと言うよな」
「だってリヴァイさん、あんまり好きとか言わないし、言いすぎても怒るから」
 はて、自分はそんな風に怒るだろうか、と自分の行動をリヴァイは思いかえす。
確かに、甘い雰囲気は嫌いではないがどうにもこそばゆくて居心地が悪くてリヴァイは「そういう」雰囲気になると茶化して、誤魔化して曖昧ににごしてしまっていた。キスまではどうにかクリアできるが、甘やかされて優しくされているうちにだんだんと耐えられない気持ちが湧き上がってきてしまうのだ。
 リヴァイは自分がどちらかといえばそういった行為に置いて受け身だと自覚はしていた。
彼の性格から考えるとエレンは受け身というよりもぐいぐいリヴァイを引っ張っていくタイプだろう。そうなってしまった経験は今のところないが、その先は闇に包まれている。
今のリヴァイにはその後に自分自身がどうなるか、なんて想像を超えており恐怖と不安しかない、少しの期待もあるけれど、やはりまだ昼間だ。
「い、一回言っただろうが」
 そう、一度だけ、リヴァイはエレンにしっかりと好きだ、と伝えてはいた。夜桜の下、好きだ、と。そして同じ想いならばキスをしてくれ、とも。
 あの時のことを言えば途端にリヴァイは顔を真っ赤に染めてそっぽを向いてしまう。相当恥ずかしかったのだろう。だが、エレンとしては思い出す度に顔がにやけるほどには嬉しい出来事だったのだ。
「そうですけど」
 不満そうなエレンの声。やっぱりたまにはこちらからも言ってやろうか、恥ずかしいけれどたまには言いたい。リヴァイは思い切って口を開けたが。
「す……」
「あ!」
 き、という言葉はエレンのあ!という大きな声で遮られてしまった。折角勇気を出したのに、という気分と何にそんなに反応しているのか、という気分でなんだ、と言えばエレンは面白いものを見つけたかのように話し始める。
「リヴァイさんって、もしかして、もしかしなくても、ニンジン苦手でしょう?」
エレンはやけに嬉しそうにそう言い切った。あぁまた新しいこと知っちゃいました、と今にも歌い出しそうな物言いにリヴァイは自分自身を顧みる。エレンの事ならばなんだって知りたくなってしまう、まったくエレンと同じような思考だったことに気が付いてリヴァイは気恥ずかしいような嬉しいような気分になった。上手く愛情表現は出来てはいないけれど、でも。日々近づいたり、新しい発見のある毎日というだけでもリヴァイの心は満たされていく。
つまるところ、まだまだ清らかなお付き合い状況であっても、据え膳食わぬ、食われぬ関係であったとしても、今のリヴァイはエレンにベタ惚れでありこれはこれで幸せだということだ。
「苦手じゃない」
ぴくっとリヴァイの片眉が動く。
「でもいつもリヴァイさんの作るカレーニンジン小さく切ってるし、今日だって煮物のニンジン少なめですよね」
「い、良いだろ別に」
あの野菜くさい感じが苦手なんだよ、と続けるリヴァイにエレンはくすりと思わず笑う。
「野菜なんだから野菜くさいですよ」
「そりゃあ、そうだろうけど」

照れ臭いのは嫌いな野菜を言い当てられたからか、それともこの距離感故か。火照る頬の熱を持て余しながらリヴァイはでも、と続けた。
「でも、お前の作るニンジンのグラッセは好きだぞ」
「グラッセ?」
「あの、甘く煮込んだニンジンだ」
あぁ、とエレンは納得したように頷いた。甘く煮詰めたニンジンが好きだなんていい歳した男が言うには可愛らしいすぎる趣味である。
「リヴァイさんって時々可愛いこと言いますよね」
「可愛いなんて、」
嬉しくない褒め言葉のはずなのに、少しだけ胸が踊る。エレンに言われる可愛いが嬉しくてたまらない。
「うん、可愛い。」
ドキドキと走る鼓動に、走る気持ち。
「お、お前、今日も泊まって行くんだろ」
「うん、だめですか?」
気が付けばリヴァイの身体を抱きしめていたはずのエレンの手は、いつの間にかリヴァイの身体を弄っていた。腰と尻の間に時々指先が触れる。
「……っ!」
くるりと身体の向きを変えられて、顔に手が添えられる。キスをされる、と目をつむればその流れにのるようにエレンの唇がリヴァイのそこを塞いだ。慣れたように角度を変えられ、半開きの口の中にぬるりと舌が入り込む。ゆっくりと舌を吸われ、上顎を舌先で突かれれば肩の緊張が一気に解ける。
日中からなんてことだ、昼食もまだだというのに。
口付けの合間にリヴァイの残った理性がふ、と食事の方へと傾くがそれはまた、エレンのキスの中に吸い込まれるように消えてしまう。
「……」
静かに見つめ合う。こんな時の作法なんてリヴァイは知らない。おずおずとエレンの顔の形を確かめるようにリヴァイはエレンの頬を手のひらで包み込む。
「俺、お前のこと」
紅潮した互いの顔、笑ってしまいそうなくらいその表情は硬く緊張している。リヴァイは次に言いたいことなんて決まっている。好きだと言えないくらい好いているなんてどうすれば良いだろう。
す……と唇を窄めたその時。
りりりり!と聞き慣れた着信音。張り詰めていた甘い緊張感が解け、反射的にリヴァイは携帯電話を手にとってしまう。
「も、もしもしっ!」
ほっとしたような、がっかりしたような。電話を片手に頭を下げるリヴァイにエレンはほぅ、とため息をつく。この先はまだまだお預けだろうな、とエレンは手帳に予定を書き入れるリヴァイの背中を見てひっそりと思った。

読んで頂きありがとうございました。

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